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30年前のインド旅行記

学者兼会社員58歳が30年前のインド、ネパール珍道中日記を書き起こします。

タージマハールにぶっ飛ぶ

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朝のリキシャ

今日はとにかくゆっくりタージマハールを見る日にしようと決めた。ホテルで、朝食を済ませた後、部屋に洗濯物を干して、タージマハールへ向かった。インドに来て初めて自転車のリキシャに乗った。オートリキシャもいいが、このリキシャのテンポもなかなかいい。だんだん気持ちがなごんできた。朝の空気はとっても気持ちいい。自転車やリキシャに乗った人とすれ違う。あぁ早く、もっと田舎に行きたいなと思った。夕方もいいけど、晴天の陽光の下、はっきり見えるタージマハールも素晴らしい。観光客も気になるほど多くなく、とってもゆったりとした感じだ。昨日、駆け足で見たところをじっくり、ゆっくり見た。僕は、中ほどにある台座からの、ちょっと遠くから見るタージマハールが一番好きだ。

老夫婦とランチ

腹が減ってきたので、近くで食事を取った。店は、この辺ではしっかりした方の造りだ。客も外人しかいない。隣の席に座っているイギリス人の老夫婦は、なかなか、かっこいい。映画「黄昏」のヘンリーフォンダとキャサリンヘップバーンの雰囲気だ。2人の写真を撮りましょうかといったが、笑って結構ですと言われた。老夫婦なのにいまさらね、という感じだった。食事をしていると、ラクダだの、ロバだの、牛だのいろいろなものが通り過ぎて行く。お腹もいっぱいになったので、昨日買ったものが、ぼられたのかどうかも確かめようということで、政府観光物店に行ってみた。値段を聞くと昨日の店と対して変わらなかったので安心した。近くの郵便局から、日本にハガキを出した。

タージマハールにぶっ飛ぶ

その後、暇だったのでタージマハールに戻って、昼寝でもしましょうということで、裏大戸から入って芝に寝っ転がった。そこでこの日記を書いていると、突然、ワンワンワンという一つの感覚がやってきた。この日記を書いているノートにまずハマって、その音がさらに鮮明に聞こえるようになった。パサパサと飛び立つ鳥に目がとまった。隣に犬が寄ってきた。「お前も俺の隣で寝るかい」という優しい気持ちで見ていると、その犬も僕の隣にきて寝てしまった。鳥の鳴き声、歩いて行く人たち、遠くからこっちを見ているインド人、さまざまなモノや音に目が行った。

ずいぶん時間が経った気がしたが、まだ10分ぐらいしか経っていない。このままではやばいと思って、「原田、なんか俺ハイになっちゃったよ」と言うと、彼は全然なってないらしく、なんのことかわからないようだ。そのうち、美しいタージマハールを見ているうちに、無上の喜びが押し寄せてきた。やっぱり「みんな幸せになった方がいいよ」と本当に思った。音どころか視覚にもやってきた。平衡感覚がおかしいのだろうか、寝っ転がって斜めにタージマハールを見てると、僕がちゃんと座っていて、タージマハールの方が斜めになっているように感じる。

そのうち突然絶望感が押し寄せてきた。これはナチュラルハイじゃない。さっき食った何かに中ったんだと思った。伝染病にかかったのかと思って、とても辛くなった。今まで人生、無事に生きてきたのに、ついに入院ものかと思うととても悲しくなった。でもしばらくすると、今度はタージマハールをこんなハイな気分で見られて、なんて幸せだろうと思った。犬も気持ち良さそうに隣で寝てる。鳥もさえずっている。そうこうしてるうちに、無性に寒くなった。ガタガタ震えている。と思えば、自分で太鼓のリズムを叩いている。あ、これはキングサニーアデのリズムだ。

この間、僕にとっては1日ぐらいたった気分だったが、実際には、2時間ぐらいしか経っていない。でも、2時間もいるので、ホテルに戻ろうということになった。めんどくさいので、原田には特に細かく説明せずに、また歩き出した。今、意識している自分とは別の自分が自然と行動している。普段の意識と無意識が裏返ったような感じだ。

大理石屋を再訪

その後、リキシャに乗ると、またお土産屋に連れて行こうとする。ちょっと走っていると昨日の大理石屋に通りかかった。例のおっちゃんが、僕を呼ぶ、子供もいる、すると原田担当のあんちゃんが突然話しかけてきた。きのうのTCの支払いが足りなかったというのだ。原田も思わず大声をはりあげてしまった。とにかく店に入ってゆっくり話そうということになった。僕はまだハイの状態のままだ。原田が何回も何回もTCを数えている。その間、僕はおっちゃんと世間話をしている。もう一人の僕はそんな自分を遠くから見ている。おっちゃんはインドの漫画を見せてくれる。「見るだけね、見るだけね」こいつ売り物じゃないのに、これが口癖になっている。漫画の面白いところを説明してくれるのだが、おっちゃんの一所懸命説明する態度の方がおもしろくて、思わず笑ってしまった。おっちゃんも、うけたと思ったのか喜んでいる。

そうこうするうちに、昨日の時計と何か交換しようという話になった。別に交換してもいいが、大理石はもういらないし時間もないので断った。隣でTCのチェックをしているのを見て、思わずTCと交換ならOKと言うと、お店のやつらみんなにバカ受けしてしまった。結局、TCの件は嘘じゃなかったらしい。原田も不足分を払って出てきた。

おっちゃんが、昨日とった写真を送ってくれという。そして、突然わかった気がした。インド人は大阪の下町のおっちゃんやおばちゃんみたいな奴だらけなんだよ。たぶん。遠慮もないけど、決して悪気はない。そう思うと、とっても嬉しくなってきた。

しかし、ヘビーだ。まだ続いている。思えば、昼の食事の最後に、ウェイターが、スペシャルドリンクがあるというので、軽い気持ちで頼んだ中に何か入っていたのか。原田は頼まなかったので、僕しか飲んでいない。ココナッツとシナモンの香りがするおいしいドリンクだったが、何が入っていたのだろう?確かに、頼んだ時に、ウェイターが、にやっとした気もする。

リキシャに乗って、欲しかったシャツを買ってホテルへ戻った。部屋に干しておいた洗濯物も無事残っていた。細かいお金がないので、ホテルで換金を頼んだがそれを待っている間、又映画のワンシーンのような気分になってきた。スタッフが意味もなく、ホテルの庭を歩き回っている。しばらく待ったが両替は無理だった。

リキシャで駅へ

ホテルの近くにいたリキシャのじっちゃんが、100ルピー替えてやるからとふっかけてくる。そうこうしているうちに、10ルピーで駅まで乗っけてもらうということになった。原田がリキシャのじっちゃんに、そのベストが欲しいというとOKと言って脱いでくれた。変なじっちゃんだ。道が真っ暗だ。空には月と星の数が少なくて、一個目立つ星が輝いているだけだ。まだハイの状態は続いている。時々すれ違う車のライトに思わず目がいってしまう。おっちゃんは、「日本の女は穴が小さくていいな」などという。「おまんこおまんこ」とすけべなじじいだ。

駅に着くと、じっちゃんがちょっとこいと言う。さっきのベストと交換に何か欲しいと言う。面倒なので、さっきのベストを返すと、それでも車両までついて行くと言う。列車乗り場の入り口には切符切りもいなくて、どんどん中に入って行く。うるさいので、じっちゃんに、ライターやボールペンをあげて、やっと車両に入ることができた。当たり前のように、予定より一時間遅れて、列車はスタートした。隣はフランス人のグループだ。さすがに疲れていたので、シュラフに入って、固まるように寝てしまった。